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東京地方裁判所 昭和29年(ヨ)4022号 決定

申請人 金子勇 外四名

被申請人 旭硝子株式会社

主文

本件を福岡地方裁判所小倉支部に移送する。

理由

申請人らは、「被申請人が昭和二十九年四月二十二日付で申請人らに対してした解雇の意思表示の効力を停止する。訴訟費用は被申請人の負担とする。」との仮処分を求め、その理由は、「被申請人は昭和二十九年四月二十二日付で、申請人らを懲戒解雇に処する旨の意思表示をした。しかしながら、被申請人が申請人らを懲戒解雇する事由としてかかげる事項は、何れも就業規則に定めた懲戒解雇の条項に該当しないものである。したがつて、右は就業規則の適用を誤り、かつ懲戒権を乱用した無効な解雇である。また右解雇は申請人らの組合活動をきらい、組合を弾圧するための差別待遇であるから、労働組合法第七条第一号に該当する不当労働行為であつて無効である。よつて申請人らは被申請人に対し、雇傭関係の存在確認を求める訴訟を準備中であるが、申請人らは本案訴訟の確定をまつては、その間賃金の支払を得られず困窮に瀕し、かつ組合活動にも支障をきたすおそれがあるので、その損害をさけるため申請の趣旨記載のような仮処分を求める。」というのである。

しかして、申請人らは八幡市枝光所在の被申請会社牧山工場従業員で組織する旭硝子株式会社牧山工場労働組合(以下単に組合という)の組合員であり、会社のかかげる解雇事由は、何れも昭和二十八年九月十日から同年十月二十五日まで右組合の行つた同盟罷業に際し、申請人らのなした違法行為が就業規則の懲戒条項に該当するというのである。そこで申請人らの右行為についてみるに、それらはすべて右牧山工場内又はその周辺で行われたものに限られ、申請人ら及び証人となるべき者その他本件関係者も殆んど同地方の居住者である。しかも当事者双方の主張によれば事実関係は相当複雑で、多数の証人の出廷が予想され、短時日の審理は困難である。そして被申請人の主張によると、本件解雇処分は右牧山工場長がその権限と責任において行つたもので、会社は実質上すべてを同工場長に任せていたというのである。してみれば、本申請を被申請会社の所在地を管轄する当裁判所に於て審理することは、当事者に経済的に負担をかけ、訴訟の遅延をきたすおそれが明かである。よつて著しい損害及び遅滞をさけるため、本件訴訟の全部を右牧山工場(営業所)の所在地の管轄裁判所である福岡地方裁判所小倉支部に移送する必要があると認め、民事訴訟法第三十一条に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 西川美数 綿引末男 高橋正憲)

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